嘘吐いたら

 あたりを見回した。
 やっぱりここにもいない。
 どこに行ったのだろう。
 もう一度今来た道を戻ろうとすれば、見知った背中が見えた。

「あ、いたいた。さこーん!」
「どうしたんですか」

 呼べば左近は嬉しそうな顔で振り向く。
 その表情を見て、やっぱりあの時ああ言って良かったのだと思った。

「この間言い忘れたことがあったの」
「と、言うと?」
「付き合うって話」
「いきなりなしってのはやめてくださいね」

 最初は意地悪い顔をしていたが、ふと慌てた顔になったので、思わず笑いそうになった。

「そうじゃないよ。……あのね、他の女の人と遊んでも良いよ」

 怖くて左近の顔が見れない。
 さっきまでは平然と見れたのに。
 ああ、やっぱり。
「でもね、そのことで嘘吐かれるのは嫌だから、もし嘘吐いたって解ったら別れるからね」

 言っている自分でも怖いんだ。



 気が付けば左近が背中に手を回していた。
 私も左近の大きな背中に手を回した。

「……そんなこと言われたら、嘘なんて吐けないでしょうに」
「へえ、軍師ともあろうお方がもう弱気? それぐらい笑い飛ばしてくれないと」

 照れ隠しか。
 背中に回した手で、左近の背中を軽く叩いてやる。

「余裕が無いんでね、俺も」
「ああ、そういうこと」

 回していた手が離れて「」と名前を呼ばれた。
 見上げれば「覚悟してくださいね」と額と額をあわせて言われた。
 「そんなの最初からしてるよ」と返した。

「これからは一途に生きるかな」
「嬉しいけど、なんだか左近じゃないみたい。無理しなくていいんだからね」

 ふと。
 それは早く他の女の所に行けということかと、少し左近は悩んだらしい。

 

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書(07/06/26) 上(07/06/30)
 きっとこれは貴方には酷い話かもしれない。それでも、貴方だからこそ、私以外の人の所に行って良いんだよと突き放した。
お題配布サイトさま『リライト』さまよりお題『嘘吐いたら別れるからな』
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