あたりを見回した。
やっぱりここにもいない。
どこに行ったのだろう。
もう一度今来た道を戻ろうとすれば、見知った背中が見えた。
「あ、いたいた。さこーん!」
「どうしたんですか」
呼べば左近は嬉しそうな顔で振り向く。
その表情を見て、やっぱりあの時ああ言って良かったのだと思った。
「この間言い忘れたことがあったの」
「と、言うと?」
「付き合うって話」
「いきなりなしってのはやめてくださいね」
最初は意地悪い顔をしていたが、ふと慌てた顔になったので、思わず笑いそうになった。
「そうじゃないよ。……あのね、他の女の人と遊んでも良いよ」
怖くて左近の顔が見れない。
さっきまでは平然と見れたのに。
ああ、やっぱり。
「でもね、そのことで嘘吐かれるのは嫌だから、もし嘘吐いたって解ったら別れるからね」
言っている自分でも怖いんだ。
気が付けば左近が背中に手を回していた。
私も左近の大きな背中に手を回した。
「……そんなこと言われたら、嘘なんて吐けないでしょうに」
「へえ、軍師ともあろうお方がもう弱気? それぐらい笑い飛ばしてくれないと」
照れ隠しか。
背中に回した手で、左近の背中を軽く叩いてやる。
「余裕が無いんでね、俺も」
「ああ、そういうこと」
回していた手が離れて「」と名前を呼ばれた。
見上げれば「覚悟してくださいね」と額と額をあわせて言われた。
「そんなの最初からしてるよ」と返した。
「これからは一途に生きるかな」
「嬉しいけど、なんだか左近じゃないみたい。無理しなくていいんだからね」
ふと。
それは早く他の女の所に行けということかと、少し左近は悩んだらしい。