「ルヴァイド?」
ご飯を食べ終わって、部屋に戻ろうとした時だ。
部屋の扉を開けようと伸ばした手を誰かに掴まれた。
「つきあえ」
「……は?」
いつも真面目なルヴァイドが、そのいつもの様に言う。
さらりと言うものだから、聞き間違いかと自分の耳を疑った。
しかし2、3回聞いても答えは同じ「つきあえ」だった。
とりあえず「どこに?」と聞いた。
空が青かった。
天と大地が近い所はとても薄く、自分の真上になるほど青い空。
天から降り注ぐ太陽の陽は言うほど強くない。
弱いとも言えないけれど、丁度良かった。
草原に寝転がり風に吹かれながら空を見上げていた。
「お疲れ様」
「怪我は無いか」
「だいじょーぶ。痛くも痒くもないわ」
「嘘をつくな、腕を出せ」
私は寝転がったままなのだが、ルヴァイドが近くに来てくれたおかげで彼の顔が良く見える。
けれど、今じっと見ればなんだか睨まれてしまいそうだ。
渋々寝たまま腕を上げれば、ルヴァイドが隣にしゃがみ込み、出した腕を見る。
「反対の腕もだ」
「ちぇっ、ばれちゃったかぁ」
触れている腕とは反対の腕も上げた。
差し出したわけではない。
ルヴァイドがサモナイト石を出した。
「頼む、プラーマ」
その声と共に、きらきらとした温かい光の中にいた。
「……今自分の傷も治したでしょ?」
「さあな」
「人の傷は見たくせに、ルヴァイドは見せてくれないだなんて酷いわよ」
ルヴァイドが苦笑いして、隣に並んで座り込んだ。
連れて来られたのはゼラムから少し歩いた所にある湿地だった。
数いる獣を私とルヴァイドの2人だけできれいに静めてしまったのだ。
先程の他に傷もあったが、それは戦闘中にルヴァイドが回復してくれていた。
あまりの手際の良さに一種の劣等感を感じた。
しかしそれがルヴァイドだったからこそ許せたし任せられたし、何より私は戦いに集中できた。
「今日はありがとう。動いたらすっきりした」
これは正直な気持ち。
あのまま部屋の中に戻ってしまったら、そこで暴れてしまいそうだった。
なんだ暴れてしまえば楽ではないかと思ったほどに、楽になれた。
「ほんと、ありがと」
「……やはり話してはくれないのだな」
「あー、うん。話したら負けそう」
「そうか」
ふと隣に座っているルヴァイドを見たら風が吹いた。
赤い髪が風に乗る。
それがきれいで、見惚れてしまう。
「あ、そういえば最近あんまり話してなかったよね。今度一緒に甘いものでも食べに行かない?」
「そうだな」
よかった、とにこりと笑えばルヴァイドも微かに微笑む。
「よし! そうと決まればもう一暴れして帰りましょうか」
立ち上がって伸びた。
怪我は一つも無いせいか、気持ちが楽になったからか。
体が軽くなっている気がする。
「そうでもしなければ帰れないだろうな」
「あー……、本当は冗談のつもりだったのになあ」
困ったように首を傾げれば、ルヴァイドも苦笑いをした。
じわりじわり、と周りを囲まれる気配がする。
剣を構えて、草むらに隠れた気配を見た。
「……帰ったらイオスに怒られそう」
「そのぐらい我慢しろ」
もしこの言葉をイオスが聞いたら泣きそう。
でもなんだか嬉しくて、ちょっとルヴァイドの方へと近づいた。
「ありがとう」
背中越しに、声をかけた。